傑が困り果てたような顔で続ける。

「他に男がいるんじゃなくて、咲花はずっと兄貴に片想いしてたんだよ」
「あの傑さん……それは咲花さん本人が言ったほうがいい気が……」
「咲花は自分からは言わない。兄貴は鈍いから気づかない」

俺は混乱した頭で必死に整理する。
咲花には好きな男がいて、それは俺で、そのために傑との婚約を破棄した?

「じゃあ……咲花は俺との婚約……不本意ってわけじゃないのか?」
「願ったり叶ったりだと思うけど。口に出さないだけで」

傑の言葉に言い添えるように里乃子が付け足す。

「あの……この前三人で初めて会ったときも、すごく幸せそうにお話してくださいました」

俺は頬が熱くなるのを感じた。
咲花が俺のことを好き。俺のことを……。

「待った……ちょっと落ち着かせてくれ」
「兄貴でもそんな顔するんだな」

傑と恋人の前で、こんな赤い顔をして照れている自分が恥ずかしい。だけど、どうにもならない。傑が真剣な面持ちで言い募る。

「兄貴もそうなら、咲花にちゃんと伝えてやってくれ」

その後はなんだか食事の味もよくわからないままだった。