愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました

「仕事で知り合ったんです。大学で教鞭を取られている先生で……。奥様は他の男性と失踪してしまったそうで、幼い娘を……この子です。この子をひとりで育てていました」

そうか、美里は市役所の育児支援課に勤めていた。そこでシングルファザーと知り合ったのか。

「保育時間の相談や、ファミリーサポートの紹介などで、繰り返しお話するたび、私に何かできないかと考えるようになって。最初は、仕事の範囲でした。それがいつからか……」

美里の言葉は彼女が初めての恋に落ちていった様子を語る。彼女もまた、俺たちと同じように幼い頃から将来を決められていたのだ。
そんな彼女の心に芽生えた恋。それは止められない熱い気持ちになっていったのだろう。

「彼は私を止めました。でも、私が押し切って駆け落ちしたんです。親も佑さんも裏切ったのは私です。彼は何も悪くないんです」

ドラマのような失踪の顛末。
俺はこの駆け落ち事件に納得もしていた。俺に相談してくれれば、婚約の解消はできたかもしれない。
しかし、美里の父親を説得するのは難しかっただろう。陸斗建設との関係もあるから、向こうも引き下がれない。美里が消えてなお、俺と美里の婚約解消を渋るくらいだ。

「どうしても、あの人の奥さんになりたかったんです。この子のママになりたかったんです。佑さん、本当にごめんなさい。皆さんに迷惑をかけて、あなたにひどいことを……」
「いや、助けになれず申し訳ない。俺がもう少し頼りになる男であれば、きみを苦しめずに済んだ」
「違うんです。佑さんはずっと私に親切にしてくれたのに」

だけど、恋じゃなかった。彼女は別に恋をした。人生を懸けられるほどの恋を。
それは仕方ないことだ。俺も彼女に恋はしていなかったのだから、俺に彼女を責める権利はない。