愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました

「あの人……、え?でも赤ちゃん?」
「美里だ、間違いない」

俺は咲花から手を離し、ずんずんとその母親に近づく。彼女がこちらを見た。俺も彼女も「あ」という顔をした。俺は確信を持ち、彼女は衝撃に顔を歪めた。
そのまま踵を返し、美里が奔りだした。赤ん坊を抱きかかえ、猛ダッシュだ。

「美里!」

追いかける俺の呼ぶ声に振り向くはずもなく美里は走る。すると、俺の数メートル後ろに控えて咲花が大声で怒鳴った。

「止まってください!転んだら、お子さんが危ないです!」

こういう時、誰よりアクティブな咲花は砂浜をものともせず走り、とうとう美里に追いついた。直線だと後ろに控えていた咲花の方が近かったというのもあるが、そんなことより咲花の勢いに驚いた。

「止まりましょう!ね?」

美里の前に回り込んだ咲花が通せんぼの格好で言う。美里はとうに立ち止まっていて、俺と咲花を交互に見て、赤ん坊を抱えたまま砂浜に座り込んだ。

「……美里」

美里は女児を抱き締めうつむいている。

「探したよ。みんな心配している」
「……佑さん、申し訳ありませんでした」

美里が絞り出すように言い、また黙ってしまう。