愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました

咲花の手をぎゅうと握り返すと、彼女は驚いたようだ。俺を遠慮がちに見上げる。

「佑、力強い」
「痛かったか?」
「ううん、びっくりしただけ」

まんざらでもない、いや嬉しそうな咲花の表情にまたしても息が詰まりそうになる。
咲花は可愛い。今に始まったことじゃないのに、実感を持ってそう思う。
咲花は可愛い。

「気持ちいいね」
「ああ、いい季節だな」
「結納は年明けかあ。その日もこのくらい晴れてくれるといいなあ」

手を繋いで歩く俺たちは、どこからどう見ても恋人同士だ。いや、夫婦にも見えるかもしれない。
咲花といると安心する。長く、それは家族愛なのだと思ってきた。だけど、一緒に暮らすようになり、少しずつ気持ちが変化していっているのは間違いない。
今思うのは、結婚相手が咲花でよかったということだ。様々な偶然からこんな縁になったけれど、それでよかったのだ。もう、咲花以外とこうして生活することなんか想像できない。
きっと、俺は咲花に振られたら、その先は独身を貫くだろう。そのくらい、この生活に愛着がある。

「佑、歩くの速いよー」

咲花が笑って文句を言う。
悪い、と謝ろうと咲花を見た時、波打ち際にいる親子連れが視界に入る。なぜ、俺はそこを注視したのだろう。目を凝らさなければ気づかなかったかもしれない。しかし、俺はその時、幼い子どもを遊ばせる母親の顔を見た。

「……美里」
「え?」

咲花が俺を見上げ、すぐに俺の視線の先を追った。