愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました

「佑、ミントタブレット食べる?」

助手席で咲花が俺を見つめる。大きな瞳に長い睫毛。咲花は美人だ。

「コーヒーを飲んでるからいらないよ」
「そっかあ。欲しくなったら言ってね。あ、あそこじゃない?」

咲花が指さす方向、丘の上には小綺麗なホテルが建っている。
結婚式を執り行うのは都内の老舗ホテルと決まっているが、うちの母と咲花の母親が、海辺の教会で式を挙げさせたいというので、せめて結納だけでもこちらのホテルを使おうと下見にきたのだ。親の機嫌とりは苦労する。

「ここは、……挙式で選ばなくてよかったかもな」

横浜からシャトルバスが出ているとは聞いていたが、街中からは結構離れている。都内からの招待客には遠かったに違いない。日比谷のホテルに決めて正解だ。

「結納なら、私たちの家族だけだし、こっちでもいいね」
「でも、母親たちはここのチャペルがいいと言っているんだろう。結納だと使わないぞ」
「そうだね。空き時間があれば、写真くらいは撮れるかもよ」
「俺はスーツだけど、咲花は振袖だろう。それでチャペル?」
「あはは、面白いじゃない」

ホテルに到着し、中を案内してもらう。話はだいたい日比谷の本館の方から行っているので、改めて決めることは少ない。結納で使う座敷を見て、当日の司会と挨拶をし、会食の内容を確認する。
チャペルで写真撮影は、少し早めに到着すれば、挙式で使う合間の時間に案内してくれるそうだ。

打ち合わせを終え、ホテルのラウンジで海を眺めながらランチにした。確かに景観はいい。今日はよく晴れて気持ちの良い日だ。晩秋だが、気温も高いだろう。
咲花はサンドイッチをぱくぱく食べ、ケーキも注文している。昔からそうだが、咲花は体型の割によく食べる。特に甘いものは好きだ。