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咲花に対して俺は何を思っているのだろう。
同棲を始めてそろそろひと月だ。日々の暮らしは順調で、結婚式の準備も少しずつ進めている。
咲花とはいい関係を維持している。寝起きを共にし、お互いが息苦しくない距離でいられていると思う。そもそも幼馴染だ。あまり気を遣い合わなくていい。
それと同時に俺はどうしても咲花を意識してしまう。
咲花に元婚約者の美里への気持ちを誤解されたあの時、弁解し咲花といたい気持ちを伝えた。しかし、あくまで俺を兄として接する咲花に焦れたような気持ちになったのも事実だ。
俺は男としてまったく意識してはもらえないのだろうか。
そんな気持ちから、あわやキス寸前までいってしまった。
危なかった。
女性と付き合ったのは大学時代が最後だ。婚約者がいるとはいえ、まったくの女性経験がないのも恥ずかしいという、男としての見栄もあった。告白してきた女子と高校時代から数回付き合ったことはある。しかし、自分から好きになったわけでもないと、やはりバレるようだ。大事にしていても上っ面だけだったのか、長続きはしなかった。
こういう俺の性質から、美里の失踪も俺のせいだという思いがあった。今までの経験から、ことさら大事にしていたつもりが、結局見抜かれていたのだろうと。
しかし、そんな俺を圧倒的に信頼しているのが咲花なのだ。
咲花は芯が強い。これと信じたものには気持ちを貫く。そうした彼女に大事にされているのは居心地のいいことだった。
それが今は“兄”という領域でも。



