愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました

「佑のせいじゃない。きっと」

咲花ははっきりと言い切り、左手首に触れていた俺の手に右手を重ねた。

「佑はずっと私の自慢のお兄ちゃんだから。佑を嫌う人なんかいない。きっと元婚約者の人は事情があったのよ」
「それは評価が高いな」
「本当よ。佑は大事な人」

俺は咲花の目を見つめる。長い睫毛に縁どられた綺麗な目だ。

「お兄ちゃんと妹か」
「佑?」
「俺も、咲花が大事だよ」

どの感情で俺は“大事”だと思っているんだろう。自分でもわからない。
でも、俺の中には確かに存在している。兄と妹という関係性に対するかすかな違和感。
俺は、咲花の兄以上にはなれないのだろうか。

目の前で咲花の桜色の唇がうっすら開いている。頬に触れ、親指で下唇に触れた。
柔らかい。唇で触れたら、もっと柔らかく感じるだろうか。
咲花がもう一度俺の名を呼ぶ前に、俺は正気に戻り手を離した。

危ない、今完全にキスをする流れになっていた。咲花が愛おしくて、勢いで唇を重ねてしまうところだった。それはいけない。
慌てて立ち上り、床に置いてあった鞄やジャケットを手に寝室へ向かう。

「夕飯の仕度、頼むよ」
「うん……」

咲花はまだぽーっと赤い頬をしていたけれど、のろのろと立ち上がった。夕食は豚の角煮だった。