母が苛立った口調で続ける。

「佑くんが婚約者に逃げられたことに問題があるんじゃないかしら」
「佑くんが真面目でいい青年なのはおまえもわかっているだろう」

佑については、私がよく知っている。母が言うようなことは断じてない。
榛名佑は私が知る限り最高に素敵な男性だからだ。人間性に問題があるはずない。

その佑の婚約者がなぜか失踪してしまったのがひと月前のこと。

「傑君の婚約破棄の理由だって、咲花がありながら結婚の約束をした女性が他にあったわけでしょう。はとこだからって、兄弟そろって咲花を利用しているようなものですよ」

母はなおも言う。元婚約者の傑は同い年。小学生までは近所に住み、同じ学校に通っていた。ふたつ上の佑も一緒だ。
ふた月前の婚約破棄は、傑に恋人ができたためで、私もその点は同意している。それなのに、周囲はそうは思っていないみたい。母は怒っているし、佑も私に申し訳ないと思っている。

「血縁で、幼馴染、咲花も安心な相手でいいじゃないか」
「あなたは従弟の竜造さんにいい顔をしたいだけでしょう。お仕事も便宜を図っていただいてるわけですから」
「仕事のことは関係ない!」

このままだと夫婦喧嘩に発展だ。私はふたつ目のシュークリームをごくんと飲み込み、自分で用意しておいたマグカップのコーヒーをごくごくと飲み干した。
それから、両親の仲裁を兼ねて口を開く。