父はもとより一族主義が強い。血の繋がりを重要視しているが故に、傑が勝手に陸斗建設から離れたことも許していない。
祖父の妹の孫にあたる咲花は父としてはふさわしい相手だったようだ。
ちょうど傑という相手がいなくなったところであり、すぐにマッチングできるのもポイントが高かった様子。

『父さん、咲花に失礼だとは思わないんですか?』

俺は憤って言った。首を挿げ替えるような安直さで、咲花を花嫁に選ぶ父の神経を疑った。
そもそも、咲花に嫌な想いさせたのはこちらなのに。

『咲花を傑の我儘で傷つけたばかりなんですよ。それを横滑りで俺と婚約だなんて』
『なに、咲花ちゃんの父親の公平は俺には頭が上がらんさ。文句は言わないだろう』

咲花の父親は陸斗の傘下企業の社長であり、父とは従弟。実際、兄弟のような関係だ。
親がどうのという話ではない。咲花の心情の話だ。
しかし、父はそういうところがある。情に訴えたとて、話が通用する相手でもない。

『では、咲花本人に決めさせてください。彼女が少しでも嫌な素振りを見せるようなら、俺は婚約しません』

そう条件をつけたところ、驚いたことに咲花側は婚約を受けると言ってきた。咲花本人も『佑なら安心』と言う。
気遣いばかりしている咲花のことだ。おそらくは、双方の両親に負担をかけないようにと飲み込んでくれたのだろう。