午前中うちに到着したのは隣県の美術館だ。森の中にひっそりとたたずむ美術館はその外観だけで風情がある。

「周りも散策スポットが多い。休憩をはさみながら行こう」
「素敵なところね。広告とかで見たことはあるけど、来るのは初めて」
「俺もなんだ」

外は夏が近づき暑いくらいの陽気だが、美術館の中はひんやりと寒いくらいだ。観光地なのでそこそこの人手を想定していたものの、美術館は大人ばかりで静かだ。平日に休みをとってきたのもよかったかもしれない。
常設展も特別展も時間をかけくまなく見て回り、美術館の周囲を散策した。木陰が多く、風もあるので散歩にはちょうどいい。

「わかった。赤ちゃんが出てきたらこういうところに来られないと思って連れてきてくれたんでしょう」

咲花が歩きながら俺を見上げる。大きくなり始めたお腹が重そうだ。

「そうだよ。美術館には来づらいよな。来られても、ゆっくりは見られないかもしれない」
「静かな美術館で大泣きされちゃったら、さすがに気が引けるよねぇ」
「ちなみにこの後は、人気のフレンチを予約してるんだけど」
「フレンチのコースも赤ちゃんが産まれたら行きづらいものね。ありがとう!でも、フレンチの前にどうしてもソフトクリームが食べたいんだけどいい?」

食いしん坊の咲花の願いで、ソフトクリーム休憩をはさみ、レストランに移動した。