咲花は四人に向かって強い口調で言った。

「私たちを認めても認めなくてもいい。でもこの子の命は認めて」

数瞬の沈黙があった。短いような長いような息苦しい沈黙だった。
最初に俺の父親が声をあげた。

「……協力しよう。後継者云々の前に初孫だ。できることはなんでもしよう」
「母さんもいいですね」

俺の質問に母親は肩を揺らし、それからおずおずと頷いた。

「咲花ちゃんのお腹、もう大きくなってるもの。こうなっては、無事に産んでもらうしかないでしょう」

黙っていた咲花の父親が口を開く。

「……納得するつもりはない。しかし、産まれてくる赤ん坊は別だ。元気な子を産みなさい」

悔しそうな口調ではあった。それでも、咲花の言葉は響いたようだ。

「手伝えることはなんでもするわ」

咲花の母親も言い、涙ぐんだ。
俺は改めて親たちに頭を下げた。

「咲花と産まれてくる子どもと三人、頑張りたいと思います。色々と言いたいこともあると思いますが、俺と咲花の結論です。どうか、見守っていてください」
「わかったよ」

咲花の父親が苦しげに表情を歪め、吐き出すように告げた。

「親同士の喧嘩に子どもを巻き込むべきではなかった。そこだけは申し訳なく思う」

俺はわずかに安堵の息をついた。完全な和解ではないかもしれない。それでも、産まれてくる赤ん坊が縁を繋いでくれた。

「ありがとう」

咲花はだいぶほっとしたようで、それから間もなくまた眠ってしまった。

目覚めたのは翌朝で、そこからは眠り込むようなことはなくなった。
母子ともに元気に退院したのは入院から四日後のことだった。