愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました

「赤ちゃん!赤ちゃんは!?」

自分が事故に遭ったことを思いだしたようだ。

「大丈夫、赤ん坊は元気だ。咲花は、頭を打って左足にヒビが入ってるけど」

両肩を押さえ、顔を覗き込んで説明すると、咲花からふうっと力が抜ける。

「ああ、よかった。うん、……そう。自転車が倒れてきて……びっくりしたぁ」
「俺もびっくりしたよ。生きた心地がしなかった。咲花はずっと目覚めないし」

横になった咲花の頬を撫で、俺はようやく安堵の息をつく。

「私、そんなに寝てたの?」
「事故は昨日の午前中だよ。20時間近く寝ていたんじゃないか」
「……佑、ずっといてくれたのね。心配かけてごめんなさい」
「咲花のせいじゃないだろう」

そうだ、咲花が目覚めたことを看護師に伝えよう。もうじき朝食だし、食いしん坊の咲花はお腹が空いているに違いない。

「ちょっと、待っててくれるか」

ナースセンターが目の前なので、ナースコールではなく、直接呼びに行く。戻ってくると、咲花はまた眠ってしまっていた。
そのまま咲花は再び眠り続けた。よほど身体が休もうとしているのか、身を守るためなのか。
朝一番で医師が咲花とお腹の赤ん坊を診察してくれた。

「一度目覚めているなら大丈夫ですね。またじきに起きますよ」

赤ん坊は母親が眠っている中、元気に起きて動き回っているようだ。咲花のお腹を撫でると、かすかに振動のようなものを感じられる。