愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました

どうやら、さきほどの親子連れを見たときのことらしい。確かに俺は、あの光景を見て咲花を思った。咲花は両親に会いたいだろうか。咲花の両親は彼女が妊娠していることすら知らないのだ。
しかし、はっきりとそのことを口にはしづらかった。選ばせてしまったのは俺だ。

「そんなつもりはないよ。ただ、咲花がご両親に会いたくても当然だなと思っただけ」
「まったく会いたくないわけじゃないわ。でも、感覚に大きな隔たりがあることも感じてる。父さんも母さんも、どこかで私を自分たちの人生の付属物みたいに思ってたのね」
「うちの親もそうだな」

俺たちは親の過干渉から脱したつもりだった。しかし、咲花のお腹で育つ赤ん坊のことを考えると、このまま親を無視し続けることに罪悪感に近しい感情があるのも確かだ。
人の親になる今だから、余計にそう思うのかもしれない。

「佑、いつかでいいと思うの」

最後のひと口を飲み込んでから咲花が言った。

「赤ちゃんが産まれて、私たちが親としてもう少し勉強ができたらね、佑の御両親とうちの両親に会いにいきましょう」
「親として勉強ができたら、か」
「うん、時間と立場の変化で、みんなの関係も少しずつ変わっていけばいいなと思うの」

俺自身は咲花と子どもを守ることが一番だ。だから、咲花の両親といえど、家族を壊すなら近づく必要はないとどこかで考えてしまう。

しかし、なによりも愛する咲花の気持ちを大事にしてやりたい。彼女の望む形で、いつか家族がやり直せればそれがベストなのかもしれない。

「わかったよ。そうしよう」

俺は頷き、咲花のために甘夏のフルーツタルトを追加注文した。