愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました

「だからって、そっちのじゃ安すぎるだろう。安全性が心配だ」
「安いから危険とかじゃないわよ。ねえ」

夫婦の会話を、妊婦の娘は楽しそうに聞いている。産む本人より、その親の方が嬉しくて待ち遠しくて仕方ないといった様子。

「ほら、おまえはどっちがいい?」
「お父さん、お母さん。もう少しゆっくり見せてよ」

娘が笑って両親をいなす。それは、とても幸福な親子の図だ。
咲花は、その親子連れが哺乳瓶のコーナーに移動していくのを見るともなく見送っていた。

「咲花」

声をかけると、驚いたようにこちらを振り向く。

「なあに、佑」
「疲れないか?」

咲花は少し考えたように首を傾げ、答えた。

「フルーツタルトが食べたくなっちゃった。もう少し見たら、休憩しない?」
「ああ、そうしよう」

俺は笑顔で答えて、咲花の腰を抱いた。
デパート内を移動し、咲花の目当てのフルーツタルトがある店に入る。つわりも収まり、咲花は毎日モリモリ食事をしているけれど、甘いものは普段よりずっと好きになったみたいだ。

「美味しいなあ。もうひとつ頼んじゃおうかな」

大きなカットのタルトを口に運びながら、咲花は幸せそうに顔をほころばせている。

「好きにするといい。咲花の好きなもの全部、食べていいよ」

背を丸めて、咲花が下からちらんと俺を見上げる。

「気を遣わせちゃった?」