土曜日、俺と咲花は池袋のデパートへ出かけていた。
ベビーグッズ売り場には俺たちのような夫婦や、小さな子どもを連れた家族が多い。ママ&ベビーカフェがあるため、ベビーカーを押したママ友同士といった組み合わせもいる。

「用事がないと来ないところだよね。前に友達の出産祝いを買いに来た以来だから、変な感じ」

俺は気が急いてこういう場所にちょこちょこ寄るようになってしまったが、咲花は気恥ずかしげだ。

ひとまずふたりで見て回ることにした。ベビーベッドと子ども用の布団セット、ベビーカーや食卓用の椅子。まだ買う必要はないかもしれないけれど、下見を兼ねている。
咲花はリストを作ってあるようでスマホのメモを見ながらあれやこれやと見比べている。熱心だ。
俺は服やおもちゃばかり見ていたので、実用的なものは今日初めてチェックした。こういうところに父親と母親の違いが出るのかなんて、少々反省だ。

「この抱っこ紐、使いやすそう」
「へえ、畳むとこんなに小さくなるのか」

ふたりで顔を見合わせ抱っこ紐を選んでいると、咲花の横に妊婦が立った。
大きなお腹は咲花より週数がずっと進んでいそうだ。彼女の後ろにはその両親らしき年嵩の夫婦。

「産むのは真夏なんだから、このメッシュの抱っこ紐がいいんじゃないか?」

父親らしき男性が言い、その妻が口を挟む。

「いいのよ。産まれて一ヶ月はうちにいて出歩かないんだから。それに、これは首が据わってからの抱っこ紐じゃない」