しかし、問題は咲花の両親の方だ。
元々の遺恨になった仕事上の行き違いを、俺が執り成し、咲花の父親の会社は想定の半分以下の損害で済んだ。穴埋めになるよう新たな仕事も斡旋し、子会社化はしなくても問題なさそうだ。しかし、親同士の感情面での溝は深く、到底復縁はできそうもない。
そうなると、咲花の父はなんとしても俺と咲花の仲を認めないだろう。

咲花はつらいはずだ。俺を選んでくれたとはいえ、ひとり娘の心から両親への気持ちがなくなるはずもない。ひそかに心配し、会いたくも思っているだろう。
いずれにせよ、俺がどこかで仲を取り持てればいいと思っている。それが何年先になるかは、今のところわからないけれど。

「ほら、美味しそうでしょう」

咲花は食卓に自慢の煮魚を並べて笑顔だ。時間ができた分、色々な料理にチャレンジしているのだ。同棲前は、毎日料理を作れるか不安なんて言っていた咲花が、今や美味しい料理をてきぱき準備してくれる。

「うん、味のしみ具合もちょうどいいね。咲花、本当に料理上手になったなあ」
「ふふ、褒めて褒めて」

素直に喜ぶ咲花は可愛い。俺ももう少し料理ができた方がいいなと思う。咲花の出産前後は、俺が家事を担当することも増えるだろう。

「ねえ、明後日の土曜日、一緒に買い物に行かない?」
「ああ。ベビーベッドとか見たいんだろう?」
「そう。まだ気が早いかもしれないけど、入院グッズやすぐに使うベビーグッズは少しずつ買いそろえておきたいんだ」

咲花は着実に母親になる準備を整えている。俺は間もなく我が家に訪れる幸福を思って、胸が弾むような心地だった。