俺が赤ん坊のおもちゃや衣類を買ってくるのが、咲花の目下の悩みらしい。
俺も俺なりに浮かれているようで、ついついデパートの子ども服売り場や知育おもちゃコーナーを覗くようになってしまった。めぼしいものはすぐに買ってきてしまうので、咲花にはしょっちゅう叱られている。

「男の子か女の子かわからないから、黄色のものばかり買ってしまうな」
「来月の検診でわかるかしら。ねー?どっち?パパとママに見せてね」

咲花がお腹に話しかける。六カ月健診では男女がわからなかった。期待は膨らむ一方だ。
男でも女でも元気に産まれてくれればそれでいい。早く会いたいなと毎日思っている。
食卓を整えながら咲花が尋ねる。

「仕事の方、大丈夫?忙しいんじゃない?」
「まあね。でも、こうして家で夕飯を食べられるからまだいいかな」

俺は依然陸斗建設に勤務している。父は俺と咲花が勝手に入籍したことは知っている。
父自身は咲花の父親に遺恨があるわけではなく、向こうが怒っているだけというスタンスだ。もともと咲花個人の印象は悪くなく、籍を入れた以上は別れさせる方が外聞が悪いと思っている様子だ。
不満なのは、対外的なイベントであった結婚式を執り行えなかったことらしい。
母についてはわからない。また咲花に接触してくるのではとも考えたけれど、現在咲花はほぼ住んでいる地域から出ないので、遭遇せずに済んでいる。

俺は益々仕事が忙しく、簡単に陸斗を辞めることはできない状況だ。
父は俺が副社長の座を退いて会社から去るくらいなら咲花との仲を許してもいいと考えているのかもしれない。それならば、うちの親の攻略はラクになる。