夏休みは割と好きだと思う。

 休み長いし、たくさん遊べるし。…宿題という重みは…まあ、負荷だと思えば。

 …——ただ…。

「休み中、みゆに会えないことだけが、残念なんだよな」

 ぼそりと呟いて、足をぶらぶらさせる。

 さっき屋上で、俺はみゆと話していた。
 それが今、夏の合宿の説明なんて…。

 部活は好きだし、もうすぐ引退なんて言われたら寂しくなるけど、あの地獄の合宿は好きじゃない。

 おまけに、今年の俺らには受験勉強なんて大きなものもあるんだ。宿題も合宿も、要らなくね?

 確かに、夏休みってなくなれば良いかもしれない。



 そう思ってから、何年か前に家族で行ったお祭りを思い出して、いや夏休みはないとだめだと思い直す。それに学校行くのだってだるい。

 夏休みはみゆを誘って夏祭りへ行こうか。あいつのことだから、浴衣は絶対に着てこないだろうけど、とりあえず俺はおしゃれして行こう。もしかしたら浴衣も、頼めば着てくれるかもしれない。

 そんなことを考え始めると、とまらなくなる。

 やはり夏休みは存在するべきだ。

 ぶらぶらさせていた足を地面につけて固定し、先ほどの態度とは打って変わって前のめりに話を聞いた。
 合宿に集中する俺って、かっこいいだろ? そんなナルシストみたいなことを考えて。
 もしかしたらあえて合宿に打ち込んだら、みゆも寂しがってくるかもしれない。「高嶺の花を放っておくなんて、頭おかしいの?」とか、「あたしだから枯れるわけがないけど、そんじょそこらの花なら水をくれないあんたになんて懐かなくなるよ」とか、言ってくれるかもしれない。スルーされても、意地を張っているのかと考えればそれはそれでなんか可愛い。

 夏休みは何をしようか。この際、思い切りみゆを惚れ直させてやろう。

 そんなことを考えていると、「にやにやして、こっそりゲームでもしてるのか!」と偉そうに友達に怒鳴られた。

 その友達と2人で、部長に叱られた。