何を残すの?

少しずつ目指す、浜に向けて
ハジメ達を 乗せた
船は、
ゆっくりと 青の波を
進む。

午前中の ゲストを
石工房に連れて、

そのまま
ゲスト達は それぞれ
この島を堪能 すれば
次の島へと
キャラバンの様に
移動していく。

「この島の東って、まるで
南国ですね!
白い断崖の 間際まで、緑が
あんなに 迫ってますよ!」

スタッフのシオン君が、
凄い勢いで、デッキまで降りて
直下たつ 海岸を 仰ぐ。

「東側になるんだけどねぇ。
こっち側の島影を見れるのはぁ
釜山の航路客ぐらいだよねぇ。」

東西南北~、こんなに島の印象が
変わる所も 珍しいよねぇ。

「オーナー。東周りで、島の南へ
向かうでよろしいのですか?
南は、消滅集落と墓地が ある
ぐらいですが。」

ハジメと、シオンと並び
ヨミも デッキに出てきている。

「見事に北側はぁ、人の生活も、
アート振興も進でいるのにねぇ」

南はねぇ、亜熱帯的な植物が
多いためかな~、
かつてはさあ、
リゾート開発される 兆しも
少しはあったんだよ~

「南のリゾートっぽい話も~
撤退してぇ、そのまんまみたい
だからねぇ。ちょっと見たいん
だよねん~。わがままだよね~」

そして、ハジメは
出来れば 昨日、
牧師に 聞いた場所に 行って
みたいのだ。

港からさあ、 車を走らせても~
構わなかったんだけどねん。

ふと、この東の海岸線を
船から 見たかったのと、

南に残った 桟橋を
使ってみたい『悪戯心』が
ハジメに、湧いてきたのも
あった。

「もう、芸術祭が始まってー
どれぐらいなんですかね?
島のアートも 増えてますけど、
たまに、そのままになっている
作品も、年季入ってたりしてー」

ボランティアさんの
メンテナンスも まめにあるって、
聞いてますけどと、
ヨミに 話す シオンの声が
ハジメにも 聞こえる。

初期なら
打ち上げ花火のような
作品も あるのかも
しれない。

管理なければ、
廃材に なりうる モノも
あるだろう。

維持と持続の 不安定さを、
人は どれぐらい
想像できるだろうか?

「ああ~そろそろ
島の南側にぃ なるねぇ~。」

何回目かになる 芸術の祭典。

今回も
島内の海岸や
古民家や路地なども
舞台となっている。

瀬戸内の独特の風景、
集落の建物、
土地の歴史を 内包して、
それを 特色とした
トリエンナーレに 成長した。

近年は、
美術館鑑賞という、
形式で展覧してきた 企画展と
一線引いて きている。

島からインスパイアを受け、
島の為に創られ
設置され、

その島でしか見れない、
まさに 島限定の
インスタレーション作品が
島の芸術祭の特徴と
なった。

『サイトスペシフィック・ワークス』

アーティストが直接来島し
島や建物、
土地を見て
『場』を選んで、
プラン立て、制作する手法だ。

その為か
野外作品も多く、
作品専用の建屋でも
設置として
メンテナンスが
必要に なると
開催年を 重ねると
目につく。

「あれ!もしかして、産廃の
半島ですか?! 海から見る
なんて 思わなかったなー。」

シオンくん、いつの間に
双眼鏡を 覗いていたの かなぁ

ハジメは、
シオンが 指さした 方向を見る。

長年 隣の島へ 搬出され
産廃処理の仕上げを
されてきた作業も、

押しに押して、
今は 土壌汚染の
復帰に 務めている
らしい。


科学の発達で、エコで環境に
配した 資材が増え、
100年単位で 朽ちない、
ノーメンテナンスな素材も
年々開発されて。

アートの世界にも
新素材は進出しては いる。

ただねぇ~、
『サイトスペシフィック・ワークス』なアートはぁ
規模が大きいから
新進の素材を潤沢にさぁ
使用するってぇ 珍しいんだよ~。

「シオンくん~、ちょ~っと
その双眼鏡~かしてくれるぅ?」

そう、
シオンから 渡された モノを
覗いて、桟橋を
ハジメは 確認しようとする。


島ならではの、
塩害による塗料の剥げに
対応するのも
課題だろう。

また、
有名アーティスト依頼となると、
メンテナンスが
ライセンス問題で出来ない事も
ある。
アートと建物が一体した作品なら
なおさら。

建築家に依頼した建物の、
劣化をメンテナンスした
オーナーが 訴えられる事も
あるのだ。

「うん~、やっぱり残ってる~」

そして、
アートだけでなく、
昭和、バブル期、リーマン前夜にあった
別荘、セカンドライフ時流に
起こったリゾート開発にも
同様に見える。

今 目の前浜に 迫ってきた場所も、
遠目には、白いテラスハウスが並ぶ元ビーチリゾートで、

桟橋も 撤去されず
双眼鏡に 映る。


「お陰でぇ、船を 付けれるけど」

って、桟橋に 誰か人の影が
見えるんだけどぉ~。
あれ~。
管理人も いない
不毛のビーチのはず?だよねん。

双眼鏡を そのまま 手に
桟橋に どんどん 船が近づく
ハジメの耳に、

浜から~?
絶叫~~~?
まだぁ 誰かいるのか?なん?

「オーナー?到着地点に、係員が
いてますけど?良かったですか?
あら?でも 閉鎖してましたね」

ヨミも シオンも 近づく浜辺の
異変に
ハジメの隣で、
不思議がっている。

あれ?れ?
よくみるとぉ~

もしかしてぇ、
「白鷺くん、香箱ちゃん?」

「「???」」

船は ゆっくり 廃墟な桟橋に
寄っていく。

呆然とする3人に
突然 目映い 反射がした。

わぁっ!!なんか 眩しい光~!
この キラキラって何~?

そして まるで、
船寄せをする
港員のように 佇む姿を
2つ捉えて、投げられたのは

昨日から
何回目かの 迎合を果たしてきた、
男の子の声だった。

「やっぱり、ハジメさんの船か。
タイミングわりーよ。」

ユキノジョウと、ユリヤが

朽ち始めようとする
桟橋の上から

船を 扇いでいた。

えぇ、凄い不機嫌だねぇ。

睨まれるハジメの心中を
無視して、
隣から 呑気な シオンが
ハジメに 揶揄している。

「あれって、白鷺くんじゃない
ですか?やだー!
オーナー、約束してたんですね」

いや、心底びっくりしてるよん。

ハジメが ヒラヒラと手を振る。

見ると、さっき
ハジメの目を 直撃した 光が
ユリヤの手から
また、放たれてた。

「あ~、そうかぁ、
なんかキラキラあげたらって
言ったの僕だよねん~。って、
何?香箱ちゃん 持ってんの?」

船の上から、
叫ぶ ハジメに

ユキノジョウが ユリヤの
手をつかんで
掲げた。

ユリヤに 渡したのであろう
その手のモノを見せる。

ハジメと、ヨミ、シオンが
グッと身を乗り出して
覗き込む。

ユリヤの 白い手には
小さな
ガラスの靴が
キラキラ
輝いていて、虹を創る。

「ダイヤモンド?」
ヨミが 呟くと、
シオンが、ハジメの 双眼鏡を
取り上げ 覗く。

「ガラスの靴に、スワロの小石が
付いてて、それが反射してるんで
すね!凄い、あの小ささで、
こんなに光るなんて!!
夢の国の お土産 恐るべしっ!」

いやいや~、シオンくん、
夢ないよぉ、その解説ぅ。しかも
何処の 商品かも わかるってぇ。

何よりさぁ~

「それぇ~?!」

なんだよぉ、そのぉ~
恋愛力のぉ ツヨサ~ぁ。

言ったさぁ、言ったけどぉ
君はぁ
僕の~アドバイス
斜め上いく 強者だねぇ 白鷺くん。

「参ったねぇ これが勝ち組?~」

僕は、その場に
ハハハハハ。はは。 はァ~。
って
笑って
へなへなと座ってしまう。

「あの。オーナー。
後ろから、凄い勢いで、
女性達が、走ってきます!!」

あ、ほんとだぁ。


『コラーーーーーーーーー!!』
『あんた達ーー、へんなのに
ついていっちゃダメーーー!!』

アハハ、
桟橋を 脱兎の如く、

ずぶ濡れの砂マミレの
妙齢のレディ2人が

鬼の形相で 渡ってきたよん。

『『あ?ハジメさん?』』

「ヨミくん~、奪衣婆だよ~」
『誰がじゃ!うおらららっっ!』

どうやら~、副女さんには
聞こえちゃった らしいねん。