今日は私の誕生日。

桜と一緒にショッピング行ったり、カフェに行ったり。

でも楽しい時間はあっという間に終わるもので、私は手に紙袋を持ちがら帰路についていた。

電車を降りて、楽しかったなぁと余韻に浸りながら暗い道を歩く。





『桃也くんからお祝いの言葉もらった?』

桜が私に聞いてきた。

『もらってないよ』





苦笑いでそう返すと、聞かなきゃ良かったとでもいうような顔をした桜。

桜は優しいなぁ。

でも桃也は今日妹の世話をしてるため、生憎ここにはいない。

「おめでとう」って一言くらいメッセージくらいくれても良かったのに…。

なんて、うざったい奴だと思われるから言わないけど。

ふぅと息を吐くと、スマホのバイブ音がカバンの中で響く。

名前を見ると桃也という文字。

「もしもし?」

『もしもし』

「どうしたの?」

声が聞けただけでも嬉しくて、泣きそうになるのを堪える。

『こっちのセリフだよ。なんで泣いてんの?』

「泣いてないしっ」

『嘘ばっかり。声だけで分かるよ』

彼にはなんでもお見通しのようだ。

涙は耐え切れず、そのまま頬を伝って地面にシミを作る。

「で、どうしたの?」

『え?んぁ、ちょっと声聞きたかっただけ。元気してるかなって思って』

「…なによそれ」

こういうこと言っといて先に照れるのは桃也だ。

そんな彼をいつもは可愛いと思うけれど、今はそれどころじゃない。

彼の口から「おめでとう」という一言が聞きたい。

それだけでもいい。

言ってほしい。

『…か、紗香!』

「んえっ!?」

『大丈夫?さっきから呼んでたけど』

「ごめん、大丈夫」

『まだ泣いてんの?』

「…」

『なんだ図星か』

もうこの空間すらも苦しくて。

望んでいる言葉が彼からは出てこなくて。

いろんな気持ちに押し潰されて、重力に負けて涙があふれていく。

「…っあーもう!泣くな!」

その声は電話越しではなかった。

すぐ後ろから、私の大好きな彼の声。

それと共に背中に伝わる温もり。

「誕生日おめでとう。紗香」

私の首に回した腕を強める桃也。

「なんっ…でっ…」

「俺がお前の誕生日忘れると思う?」

だってお祝いの言葉くれなかったじゃん。

何も連絡なかったじゃん。

忘れられてると思うじゃん。

言いたいことは山ほどあるのに、泣いてるせいで上手く伝えられない。

「プレゼント選びに時間かかっちゃって」

そして桃也は、手に持っていた紺色の小さな紙袋を目の前でチラつかせた。

その手からプレゼントを受け取って中身を見ると、入っていたのは小さな紺色の箱。

「開けてみて」

いつのまにか正面に戻ってきた桃也は、私の紙袋を持ってくれた。

小さな箱をパカッと開けると、そこには2つに分かれた銀のハートのネックレス。

端っこの方に小さな青のストーンが飾られていた。

「俺とおそろい」

そう言いながら、桃也は自分の首にかかっていたネックレスをシャツから出す。

そこには私のハートのもう半分のチャームがぶら下がっていた。

同じく端っこに小さな青のストーン。

「形に残るものがいいなって思って」

それ以上は何も言わず、ネックレスをつけてくれる桃也。

距離が近い彼に今すぐにでも抱きつきたい気持ちを抑えて、大人しくネックレスをつけてもらう。

「うん。やっぱり似合う」

彼は嬉しそうに目を細めた。

「…ありがとう」

泣きながら私がそう言うと、彼はふっと頬を緩ませる。

そして手を私の頬にぴたりとくっつけた。

「泣くな。紗香は笑った顔が1番素敵なんだから」

桃也は一体、どこまで私を惚れさせる気なんだろう。

どこまで私を好きにさせるのだろう。




最高で最高の誕生日になりました。