春の闇に連れ去らレ


これ分かってて、緤の近くに座らなかったな……とシュウと麻を少し睨む。当人たちは気付きもせず、最後の一滴までグラスに注いでいた。

ロックで飲む人たちのテーブルに水が置いてあるわけもなく、あたしは立ち上がって冷蔵庫へ向かおうとした。

「おっも、いんですけど」
「どこ行くんだよ」

組まれた肩に体重がかけられて立ち上がれない。

「だから水取りに……」
「あ、寝てる」

麻の言葉に緤を見る。さっきまで喋ってたのに、反応がない。

一緒に過ごして二年ほどになるけれど、緤が人の前で寝ることは片手で数えるほどしかない。