春の闇に連れ去らレ


シュウがキッチンの方で煙草を吸い始めていた。見てみぬふりをしている。

「麻てめえ」
「ん、はい?」

緤が麻の胸ぐらを掴もうとした。その腕を掴んで、下ろす。

「緤さん」
「あ?」
「帰りましょう」

あたしの言葉に舌打ちをしてリビングを出る。シュウの横を黙って通ったので、あたしは頭を下げた。

「お世話になりました」
「いや……」

その視線は固定された腕を向いていた。

「宿泊代は緤さんにつけておいてください」
「ああ。お前」
「はい」
「なんかあったら言えよ」

言葉の重みに、耐えかねる。