「う・・・うわぁぁぁあああっ!!!!!」
「ん?」
みっちり神崎監督にしごかれようやく正座から解放された未茉の耳には男の悲鳴のような声が聞こえたが、
「なんだ今の叫び声・・・あっ、いってぇぇっ!!!」
ビリビリと痺れる足でうまく立てない未茉は廊下を伝い歩き健の部屋へと向かっていた。
‘優勝したら俺の女になれよ。’
部屋で一人健はまだ調子の悪い左手を睨みながら、ゆっくりと上下に曲げながらマッサージをし、今年の夏のインターハイのことを思い出していた。
「……」
対戦高の名古屋第一との試合で痛めた左手首が未だ回復に至っていない。
高校に入学してきた嵐との対戦を前に消えた夏の夢、国体すら万全な体制で挑めずにいることにため息ついてると、
ーーバッタンッ!!!
「!」
突然ノックもなしに勢いよく開いた扉に驚いて左腕を隠すように立ち上がると、
「健兄ぃー!」
「未茉?」
扉まで行くと生まれたての小鹿のようにガクガクと足を震わせながら壁を伝い歩く未茉が部屋へと入ってきた。
「何やってんだ・・お前は。」
呆れながらもひょいっと未茉の腕を持ち上げ手を貸すと
「正座させられてたんだよっ!神崎監督に!もーっわざとサボってたんじゃねーのによぉっ!!」
痺れて歩けねーと怒ると、
「手が焼けんな。お前は一から十まで!」
今度はひょいっと軽々とお姫様だっこで未茉を持ち上げる。
「わぁ~いっ!」
楽チンっと喜ぶ無邪気な笑顔で健の肩にギュッと手を回した。
「まだ軽りぃーな。お前。」
「そぉか?キタローのおかげで筋肉も体重も増えてんだけどなぁ~。身長がなぁ。もっと伸びてもいいんだけどなぁ。」
昔から一番に何十回何百回もおぶったりだっこしてきた健には手に取るようにその重さが分かる。
もちろん変わってく彼女の身体の曲線までもが手に取るように分かっていた。



