ユリの部屋から出てきた翔真を廊下で待ち構えていたのは、星河匠だった。


「……あ。」
思わぬ待ち伏せの主に翔真は足を止めた。
「神崎監督からの伝言で前園を明日帰らせろ。って。」
壁に寄りかかり腕を組んでいた匠が体を起こしながら言った。

「朝、お家の方が迎えに来てくれるらしいからとりあえず気持ち切り替える意味でも帰らせた方がいいっていう判断らしい。」

「……そうですね。」
確かにあの状態ではもう無理だろうし、明日の試合を見せるのも精神的にきついだろうから賢明な判断と頷いた。


「ついててやらなくていいのか?」

匠のその不自然な問いかけに翔真は顔をあげた。

「彼女にはお前が必要なんだろ?」
「……」
「だったら未茉に気なんか使わずにいてあげればいい。」

明らかにトゲのある言い方に翔真は大きくため息をつき、胸を張って答えた。


「俺に必要なのは、未茉ちゃんです。」

「……!」

「最近はようやく彼女にとっても自分が必要なんじゃないかと思い始めました。」

よくもぬけぬけとそんなこと平然と言えるなーーと思わず掴みかかりたくなる気持ちを押さえるのに必死だった。

「……お前がだらしないから女子のこういう騒動を起こしたんじゃないのか?」
「……」
「普段未茉に対してどんないい顔をしてんのか知らないが、こういうことがお前がきっかけで起こるってことは、お前にも責任があるだろ!?」

「……はい。」

「健や俺にとってアイツはずっと可愛い妹だった。未茉はお前なんかには渡せない。お前なんかとは比べ物にならない歴史があるんだよ。」

「分かってます。」
「だったら彼女に近寄るな。」
「それは」
「錯覚してるだけだ!!俺や健から離れて近くにいたお前のことを。」

「……たとえそれでもいいです。」

「!?」
「匠さんのように俺もどうしようもないくらい未茉ちゃんが好きなんです。だからどんな風に求められたって構わないです。」

軽く頭を下げて翔真はその場を立ち去ると、匠は唇を噛みしめてその後ろ姿を睨んでいた。