「前園、お前がいなきゃ愛知には勝てないって言ったのは白石だ。」

通りすぎ様に田島が告げると、昨日彼女が自分の家へ来た理由が分かった。

必要とされる感覚が久しぶりすぎて、ハッと鼻で小さく笑うと、溢れそうになる涙をグッと堪えて深呼吸して強くその一歩を踏んで走りだした。


「前園が本当に越えなきゃならない壁を気づかせてやれてよかったですね。」
ベンチに下がり座ったままの石井が神崎監督に言った。
「ああ。一番気づかされたくない人間にだったろうけどな。」
だがユリの復活は顧問であるこの人が一番嬉しいだろうと思った。



「絶対に負けなくってよぉお!!!」

ーーガンッ!!!
だが、ユリの頭上から見下ろすようにジャイコは激しい当たりの末、力強いダンクを決めた。

「「うわぁぁあ!!」」
ダンクはバスケの花形プレーだ。
それを唯一、公式戦で女子高校生がやれるのをお目見えするのは、名古屋第一だけだろう。
観客は拳をかかげ立ち上がって歓声をあげ始める。


「あなたが湊君の彼女だと言うならば、名古屋プライドに全てを賭けきたこの私は絶対に負けるわけにはいかないわ!!」

このマッチアップにいつも以上に闘志を燃やすジャイコは息を切らすユリを睨み付けた。


「クッ…!!」
だが、苦しんでいたのは、ユリだけじゃない。
静香もだった。

ゴール下のポジション取りに苦戦を強いられ、縦幅も横幅も10cm近くもある水越に体を当てられ石井不在の中、懸命に体を当て押さえ込んでいた静香だったが、

「大丈夫か?!静香!!」

未茉が気づくと、神崎はタイムアウトをすぐ取った。

第2Qは残り1分を切り、
16対23
点差は少しずつだが詰めよっていた。