だが、ユリは今、この瞬間、
初めて地に足が着いてる気がした。

ここにはないと思ってた場所に、一番大切なことがあったような。
それは不思議な感覚だった。
自問自答する彼女を見つめる神崎の目にはユリの後ろ姿のユニフォームの背番号が滲んだ。


(…私が区内ベスト8の桜蘭学園の監督初任度を任された時、嬉しかったが、もっと嬉しかったのは…前園ユリという生徒に出会えたことだ。 

174cmと強豪バスケを見据えるとそこまで高くはないし、すらりとした少し細目の長い手足だが、全身バネのような圧倒的なジャンプ力とリバウンドの嗅覚、素早いカットインと持久力は、間違いなく東京トップクラスだ。

彼女をチームの軸にしてその才能を伸ばしていった。
特別入れ込んでしまったのも間違いない。

前園の家は片親であまり栄養の取れたものを食べれてない様子で、いつも一人で何かを買って食べてたようで、私が家でご飯を作ってあげると、

“めっちゃくちゃおいしいです!!”
わりと学校ではクールな前園が満面の笑みを浮かべ嬉しそうだった。

あまり一人の生徒に肩入れするのはよくないと分かっていたが、
“先生!!また作って!家に夜誰かいてくれると嬉しい!”
そう言われると断れず、多いときは週3程、ユリの家でご飯を食べて、バスケの対戦相手のDVDを見て分析したりしていた。