そこそこの高校が神崎監督の戦術によって東京ベスト3まで導いた快挙に部員も学校も監督も盛り上がっていて、元々持て囃されるのが好きなユリは脚光を浴びみんなの熱い視線が自分に向けられることが嬉しくて幸せだった最中、

「本当にある日、急によ。監督の求めることに結果を出せなくなっていった。いわゆるスランプなんだけど最初は気にも止めなかった。でも今まで褒めちぎられていた言葉も期待も全て『なんでできない?』の罵声に変わった。」

監督は駄目な所を伸ばすつもりでついてくる言葉もユリの耳にはただのプレッシャーにしか聞こえなかった。笑顔だった表情が怒った顔に変わる自然とそれは恐怖になった。


『ユリさん今日も怒られてるよ。』
『予選はまぐれだったんじゃない?』

「味方である仲間達の声が言うこと聞かない体に更なる拍車をかけて鉛のように心に沈んでいって部活終わってもボーッと駅のホームのベンチで何本も電車を見送る毎日だった。」

シュートを外すと何か言われるんじゃないかとか、こう動いたら駄目だって言われるんじゃないか、気づくと常に監督の顔色を伺うようなプレーにユリは変わってしまった。


「……私、本当はそんなに凄くない。」


頬にはホロホロと大粒の涙が伝い落ちた。

「みんなが期待するほど凄くない…」

同時に自分の脆さも知った。

「エースは弱音吐いちゃ駄目だって思って……そんな時はいつも、翔真に会いたかった。」
そしてもう口にしてしまった思いは止まらなかった。

「……ユリ。」

翔真は彼女の頭にそっと優しく手を置いた。
「…ッ……」
その懐かしく大きな手の温もりも優しさもずっとずっとユリにとって我慢を言い聞かせてきた唯一のものだった。

「うっ……」
才能も愛情もバスケや物事への真っ直ぐな信念を持つ強気な未茉には敵わなかった。
敵わないからこそ、翔真に選ばれたことも太刀打ちできないと分かってるからこそユリは羨ましくて仕方なかった。

「……支えられなくてごめんな。」

しゃがんでユリを覗きこむ辛い目をして謝る翔真を困らせる自分が嫌になったユリは、静かに首を振った。