そしてエマの隣に立つ田島も、表情は固かった。
(早く時間になれよな。)
試合開始のブザーが鳴るまでこの構えてる数十秒がこんなに緊張するのは、名古屋第一だけだ。
始まってしまえばプレーに集中できるが、この数十秒はチームを引っ張ってく自分と戦ってるようだ。
その真逆で隣にいるエマを見ると本当にこれから試合するのか、というくらいリラックスして立っている。
その横顔からは気合いも闘志さえも何も感じられない。ただホイッスルがなるのを待ってるだけ。
(私がここに立ってるとは思わなかった。)
ユリは自分の足元のコートの上に立つバッシュを見つめながら、昨日までバスケとは縁を切ると言った自分が、今日ここに立つなんて思っても見なかった。
(しかも国体。チームメイトには白石もいるし、相手は雲の上の奴ら名古屋第一だし。
…しかもあんなに怒鳴られ逃げ出した監督の側でもう一度やるなんて。)
思わずユリは神崎の方を見ると、その視線に気づいた神崎は小さく頷いた。
“頼むぞ”か、“大丈夫。”
どっちか言われた気がした。
(スタミナが持つだろうか。)
離れて休んでた分、40分走るのも辛いに決まってる。
“期待はしてないけど信じてる。”
今朝くれた監督の言葉を目を閉じて何回も唱えた。