「未茉。」
「嵐!」
親しそうな呼び名で呼び合う二人に、会場は一瞬静まりかえった。
「上から見てるから頑張れよ。」
「おう!」
「えっなにあの6番…!」
「桐生嵐の知り合い?」
「しかも可愛いし」
わざわざコートにまで駆けつけて激励する中なのかと誰もが驚いていると、そのざわめきさえ、嵐にとっては心地よく感じ、
「未茉、睫毛に埃が付いてる。」
「ん?」
軽く肩を抱き寄せて、頬に手をあてられ、片目を閉じると瞼をそっと優しく撫でられる。
「おやおや、お熱いね…」
会場に来ていた神様・小倉記者も頬を赤く染めカメラを向けていた。
「「きゃぁっ……」」
その異様な親密さと密着する二人に会場の女子達は、真っ赤になり言葉を詰まらせてた。
「……」
一人壁に寄りかかり座るエマの視線の先に二人はいた。
ただそれを黙って顔色一つ変えることなく見ていた。
「大丈夫、取れた。」
「おうサンキュー」
コートに戻ろうとするも、嵐は両肩をぎゅっと掴み、視線を同じ高さに落として真っ直ぐと未茉を見た。
「いいか?必ず勝て。」
「おう!」
「俺は勝って男子のMVPを取る。お前も女子のMVPを取れ。」
「!」
「去年の全中の時みたいに一緒に国体の表彰台に立つんだ。」
強気なその目は昔から変わらない。
“いいか?未茉世界征服だ!!”
“おうあたしに任せとけ!!”
一緒に試合に出るときはいつもそう言ってたけ。
「ああ、ブレてる場合じゃねーな。サンキュー嵐。」
「おう。」
ようやくスイッチが入ったのか、ぶれないその瞳に安心した。
「埃なんてついてませんでしたよね?」
コートから立ち去る嵐が横を通ると、翔真がそう確認した。
鋭く突き刺すような視線を送られ、ゆっくりと口を開いた。
「埃はお前だ。」
…俺が取り除く。
アイツの邪魔になるものは全て。



