「…なんなんだよあの兄貴…」
取り残された一同は後味の悪すぎる空気に唖然とした。
腹の虫がおさまらない殺気だった和希を車椅子に乗せて翔真は視線を落としていた。
「本当に白石の兄貴なのかよ」
「俺、めちゃくちゃ憧れてた人なのに」
橘と結城はがっかりしながら夢であってほしいと思った。
「颯希さん相変わらずなんだ…」
まるで変わってないと莉穂はため息ついた。
「…やっぱり昔からあんな感じなの?」
居心地が悪そうに神崎が聞くと、
「お前!!どの面下げて姉ちゃんの監督なんか引き受けたんだよ!!?」
急に和希は翔真の手から離れて車椅子をこぎ神崎に噛みついた。
「まさか颯希とグルになって姉ちゃんのチームを負けさせようとして引き受けたんじゃねーだろうな!?」
「違っ…!!違うわ!!!そんなこと絶対にない!!!」
直ぐ様、全力否定する様子には嘘はなさそうだが、
「さっき、颯希さんが“綾乃”って呼んでましたよね?」
みんながひっかかっていたことを莉穂は核心に迫った。
「婚約者だってよそいつ!!」
前に母から紹介されていた和希はそう言い睨んだ。
「婚約者って…神崎監督が!!?」
まさかの関係性に驚きを隠せなかったが、神崎は自分の手を握りしめ視線を落としながら重い口を開いた。
「兄妹が不仲だってことも、つい最近星河君に聞くまで知らなかったの。星河君には婚約者だということも口止めされてて…」
「綾乃、帰るぞ。」
そしてわずか数分もしないうちに、颯希は戻ってきた。
健も連れて。
あまりにも早い解放に一同は驚いた。