「なんや、珍しく弱気やなぁ。」
静香の目にはそう映ったが、

「いや、今まで勝ち続けてきた人が全国で唯一歯が立たなかった相手エマと、唯一互角戦えるかもしれない白石が戦力に加わるんだから、相当集中してるよ。絶対。」

一緒に二年間田島とプレーしてきた石井は天才と持て囃され唯一屈辱を味合わされてるエマにどんなに悔しさを重ねてきたか知っていた。
絶対に明日は全身全霊をかけてエマに挑みに行くことだろう。


“いや、ユリがいなきゃ勝てない。”


合宿の時に放った未茉の言葉を駆け巡らせながら、田島は誰にも言わずユリの家に向かった。

実は隣の中学で家もわりと近かった。
小学校のミニバスの時は何度か対戦したこともあった小学校だったが、当時ユリはまだいなかった。
中学に入り選抜に選ばれ高校に入り、監督に見初められ区内ではその名を轟かせていったが、

(ま、私の足元には及ばないけどね。)

ふんっと嘲笑いを浮かべ、ユリの家に着くと見慣れない制服姿の男が出てきた。

「あれ、あんた」

明らかにバスケやってて、どっかで見たことあるが名前思い出せずにいると、

「明徳の三上です。」

もちろん田島のことは一目で分かる三上はそんな空気を察してか、名乗りお辞儀をした。
田島はユリの家に上がり、片親の母親も留守で誰もいないリビングのソファーでクッションに顔を埋めるユリを尻目に、


「なに、あんた湊やめて次もまた明徳の男と付き合ってるの?家から出てくるのを見えたけど。」

さっきばったり会った三上に経緯を聞いたが、あえて知らぬふりをしてわざと嫌みから切り出した。


「何しにきたんですか?田島さんがわざわざ。」

そんな嫌みには無反応でユリは睨み返した。