「ここに来たお前の様子おかしいのくらいわかんだよ。俺の前でそんな強がりを泣きそうな顔で言うんじゃねぇーよ。」

「健兄…」
いつもなら、抱きついて泣くだろう。
いつもなら、背中をさすってくれるだろう。でも、

「もう、健兄の胸では泣けねぇから。」

その胸で泣いたらいけない。

絶対に泣く場所を間違えたらいけない。そんな思いで指し伸ばされた手を強く突き放すように健の胸を押し、背を向けた。
頬に伝う無意味な涙を拭い、悔しくて自分にムカついて唇を噛み締めて保健室を出ようとした時、

細くて大きな手で頭を捕まれて、健の方へ強引に引き寄せられた。


「安心しろよ。別にこれはなんてことない兄貴としてのハグだからよ。」

頭の上から落ちてくる優しい声と、罪悪感を感じさせないように撫でてくれるその手が、胸を締め付けて、きつくきつく閉じた瞼から涙がぽろぽろと溢れた。


「…今日は一番アイツの喜ぶ顔見るはずが、一番傷ついた顔を見ちまって…それが脳内にこびりついて、胸が痛くて死にそうだぜ…」

「ユアペースな湊のことだから、未茉の姿見たら、またいつものようにデレデレすんだろ。」



そう、確かに、この時までは健の読みは当たっていた。

これから起きるただ一つの誤算をさすがの健も分かっていなかったからだ。


「白石!!白石!!」
足早な足音が向かってきて、バンバンっ!と保健室のドアを叩かれると、
「大変だ大変!!大変なんだ!!」
保健室の二人の元へ新米斎藤が猛ダッシュで駆けてきて、


「北が…北が警察に!!!」


「ええっ!?」