「なんだよ。湊。お前の相手は俺じゃねーだろ。」

いつの間にか体育館を出ていた健に気づいた翔真は、勝負から逃れて追い付くと、


「…いや、俺の相手はいつだって健さんです。」

はぁはぁと息をきらしながら翔真は、真っ直ぐな目で伝えた。
だが、それは怪我をしている健にとってはこれ以上ない誉め言葉に近かった。


「マイクが聞いたら泣くぜ。それ」
クッと呆れ笑いをしてすぐにクールな表情に戻した。
「なんか用か?」
「……!」
なんか用かと聞かれると果たして用があったのか分からなくなってしまった翔真は、ぼんやりと「えっと…」と首を傾げた。


「お前大丈夫かよ・・・そのド天然・・そんなんだから前園につけこまれるんだぜ?」

「!」
この人にはなんの説明なんかいらないのかもしれない。
その場の空気だけで状況が読めてしまうのだから。
「バスケじゃ隙なんか見せねぇくせに、普段は隙だらけだな。お前も未茉も。」

「…」

「おいっ!ボヤッとすんな!」
「あ、はい」
芯が通ってるんだろうけど、すぐにふわっとしてしまう翔真にたまらず怒鳴ってため息ついた。

ユリに決着つけなきゃ未茉を愛する資格ねぇとか、くだらない答弁をするつもりなど健にはさらさらなかった。

それは…


「ちゃんと解決しねーと次にはぜってー進めねーよ?」

「…分かってます。」
「あっ、そー。」
じゃあな。と健は舌打ちしながら背を向け歩き出すと

「早く治してくれませんか?」

「あ?」
「その手…」
「…」

「俺も健さんに勝たないと進めないです。」


戦いたかったのは、翔真だって同じだった。
誰よりも、何よりも戦いたかったのは翔真の方だったのかもしれない。


「…フッ。それまでだぜ。未茉と付き合えんのは。」

「いや、それはないです。」
「あ?」
「…」
空を見上げると鰯雲が青空に伸びるように広がって、ため息もかきけされてくようで、憎らしい感情を浄化するように瞼を閉じて切り替えた。


「はえーとこ治すわ。出直して未茉も全国ナンバーワンも取り戻す。」

「いや、全国ナンバーワンは取り戻せても未茉ちゃんはないです。」
「いやお前・・俺に勝負挑むんならそこの意地もっとはれよ・・。」