「未茉は奪いたい時に奪うけど、バスケだけは、この夢だけは待ったきかねーから。」

珍しくコート以外で闘志をむき出しにする真剣な目の健に兄弟ながらに驚きを隠せなかった。

「……俺はお前みたいに割りきれる程の自信がない。」

ため息をつきながらベッドに深く腰をかけ、気持ちのやり場に困ったように頭を抱えながら俯いた。

「匠?」
「……未茉のことが女として好きだ。最近自覚した。」
「おせぇーな。」
その今さらな告白に健は笑うと、何も言い返せず視線を反らし恥ずかしそうに髪をかきあげた。

「お前や嵐になら話は分かるけど湊なんかに渡せない。」
「……」
渡すも何も未茉はお前のものでも俺らのものでもないぜ?そう言いかけた言葉を健は飲み込んだ。

「未茉は恋とかよく分かってないじゃないかな。だから近くでしつこく言い寄られた湊にほだされてんじゃないかな。だから未茉は王子に来るべきだったんだ。俺らの手の届くところに連れて……」

「やめろ。」
「!」
「お前の私情で王子に未茉を来させるとかありえねーよ。」
「……健……」
わりといつも自分の述べることを優しく聞いてくれるか受け止めてくれる兄貴が、怒った顔で否定するのは、珍しくて驚いた。


「俺はそれで正解だと思ってるよ。アイツの実力はどこにいたって陰ることはない。だからこうやって国体代表にも選ばれてるのだから。」
「……でも」

「わりぃ、俺ランニング行ってくる。」

苛立ちがこれ以上出ないように健は立ち上がり部屋を出ていった。