“こんな痛いの未茉じゃなくてよかった。”
未茉はママが言っていたその言葉を思い出して呟いた。
「今までの分も全部利子付きでいーからよ痛いのあたしにくればいーのに」
「あ?」
隣に座って健の両手を握って泣かないように涙ぐんでいた目を潤ませながら見上げる。
「今までたくさんあたしの身代わりになってくれた分、今度はあたしが」
ぎゅっ…!!
言いかけながら勢いよく彼を守るように力一杯抱き締めた。
「おっと。」
あまりにも力一杯の思いに思わずバランスを崩すも彼女を支える。
「代わりにあたしがバスケ何年かできなくなってもいい。」
「…!」
まるで神様にお願いするように、健の肩にしがみつく。
「ばーか!お前ができなくなるなら俺ができなくていーだろ。」
「やだやだやだ」
ふるふると未茉は首を横に強く振りながら気づくと抱きつく手の力も、否定すればするほど強まっていって
「健兄なら絶対うまく行くから!!」
信じてるーー願う気持ちがそう言いきる。
「おーサンキュー。」
不器用な思いを受けとるようにポンポンッ…とありがとうと気持ちを込めながら彼女の背中を叩き返す。
「どうしても…」
未茉は涙ぐんでいた目を瞬き、涙を落としながら悔しさの中、
「どうしても…あたしの気持ちはやれねーけど、パワーはやるから!!」
「!」
彼女の迷いのない言葉と、あえて謝らなかった彼女の言葉に健は驚くも、それがどこか嬉しかった。
「さんきゅー。無敵だな。俺」
いつものように勝ち気に微笑むと、振られたのになんとも清々しかった。
「あたしは翔真と付き合う。」
「ああ。」
「長い間、ずっと想ってくれてありがとう。」
この15年分の感謝は、いつかどこかで返そう。
少しずつでも。必ず。
強く抱きしめた彼の背中から見上げた夕焼けのピンク色の雲と空の間には、微かながらの光が差していた。