“このままだと来年のインターハイも厳しいかもしれない。”

昨夜の医師の診察室でレントゲンを見ながら健に伝えられた絶望。

“だいぶ前から症状出てたはずなのにインターハイで無理したんじゃないか?”

病院の中庭には夏の湿気が少し乾いた風と肌にまとわりつく。
健の不快指数をより増やしてくのは、どんなにリハビリを頑張っても思い通りにはいかない腕と医者からの否定しがたい事実。

幼き頃からよく見慣れた健の後ろ姿が元気ないのが彼を探してたどり着いた未茉にだって分かった。


「健兄、…いてぇーのか?」


いつもはバタバタと大きな足音を立ててやってくる彼女が恐る恐る様子を伺うように背後から近づいてくる気配を感じていた。

「なんだ。俺を振った罪な女か。」
「話そらすなよ。」
「全然そらしてねーよ。」

おちゃらけたつもりでもマジな顔で返す健の痛いと思われる左腕を絡み付くように抱きつき、


「痛いのは、あたしにとんでこいっ!!」

「なんだよそれっ…」
突然大声を出して唱える未茉に驚く。

「健兄昔からそうじゃん!あたしや嵐が怪我して泣くと自分が痛くなれって言うじゃん!」
「ははっ!嵐にはあんま聞かねーけど、未茉はすぐそれやると泣き止むもんな。」

「そうだっけ?」
「そうだよ。そんで俺が痛がるふりするとさ、」

“あ、もう痛くない!!健兄さんきゅー!!”

「現金なやつだよ。べそかいて泣いてた奴が何事もなかったかのようにケロッとしてんだもんな。」

夕空を眩しそうに目を細め昔を懐かしそうに健は想い馳せる。