「おい翔真!お前のハンバーグと俺のこのブロッコリー交換しろ!!」
お弁当の時間になれば、また傲慢な竜之介は翔真に命令する。
「うん。いいよ。その代わり電車のおもちゃ返してくれる?」
「しょーがねぇなぁ。まぁ、いいぜ!」

「ありがとう。竜之介君」

屈託のないふわっとした甘く柔らかな笑顔は当時から健在で、翔真が笑うと悪ガキ竜之介まで悪くない気持ちになり、みんなが優しく穏やかな空気になれる力を彼は持っていた。

「本当に翔真君は優しくていい子ですね。さっきもお友達のおもちゃを取り返す為に自分のおかずをあげてて…あ、もちろん竜之介君には怒ったんですけどね。」

幼稚園に迎えに来た翔真母は先生からそう聞かされ、いつも笑顔の息子に少し心配になり、

「翔真、おかずあげたんだって?大丈夫?」

帰り道、繋いでいた手をぎゅっと握りしめながら母はしゃがんで視線をあわせながらその瞳に覗きこむように尋ねた。

「え?大丈夫だよ。」
もう忘れていたのか、慣れていたのか、それとも友達が喜んでくれればよかったのか、その表情は無理してる様子もない。

「翔真ハンバーグ大好物じゃない…」
「うん?でもママの作るハンバーグが僕一番大好き。」
心配かけまいと察しているのか、それともそれほど気にならないことなのか、にこっとするその笑顔に小さな頃から物分かりもよすぎることに母は不安を感じていたが、

「僕ね、おうちみたいにみんなが笑って楽しく過ごせてれば僕も楽しい!」

目を輝かせて笑うその表情には、無理してる様子などひとつもない。
本当に心からそう願ってやっていることなのだ。
そう思うと安心した。