(夢…夢か…)


あまりにも現実感のある夢のやりとりのせいか、窓に映る自分の不安を露にした表情に驚き、隠すように口元を手で覆い、また上半身を縮こめ俯いた。

夢の中では、自分が言いたくても言えない台詞をさらりと言っていた自分と、聞きたくもない言葉を聞いていた自分と、

心のどこかに転がっていた不安をぶつけていたデリカシーのない自分に吐き気がした。

「……」

気持ちを落ち着けようと電車の揺れにまた身を預けるように目を閉じた。

ふと自分のことを客観的に見てみると幼い頃を思い出す。

両親がとてもおおらかで仲がよかったせいか、家の中では笑いが絶えなかった。俺はその空気感が当たり前で心地いいものだった。


だが一歩外に出れば、


「ここは俺の縄張りだ!!」
幼稚園では凄い大きな態度で組を支配する男がいた。
「ずるい!竜之介君ばかり!!」
わぁゎわぁーと園児達が争いを初め、やがて喧嘩となる。

「こぉら!!竜之介君っ!!」
組に一人は先生も手を焼くような問題児がいるものだ。
翔真の日常で唯一、平穏さが崩れるのは幼稚園でのプレルームの時間だった。


「おい!お前が読んでいるその本よこせ!!」

翔真が手にしていた童話の本を指差し、竜之介が言った。
ちょうど物語も終盤にかかったいいところだったが、

「いいよ。その代わり竜之介が読んでた本借りていい?」
「これか?まぁいいぜ。」
「うん。どうもありがとう。」
にこっと笑うと竜之介も自分のいいなりになる使える奴と判断してニヤッとほくそ笑む。

「はい。信也君の。」
竜之介に取り上げられた本を翔真はこっそり返した。
「わぁっ。ありがとー!もう戻ってこないかと思った!!」