「俺、知ってるんだ。健兄の症状。」
「え…」
「俺らの前では打撲とか突き指とか言いはぐらかしてじゃん?でも俺あんなに長い間リハビリしてんのになんでよくなをんねーんだろって気になって。」
「マジかよ!!なんで黙ってたんだよ!?」
未茉は和希に掴みかかるように問い詰めると
「病名ははっきり分からなかったけど、元の腕に戻るにはどんなにリハビリを頑張っても国体は愚か、ウィンターカップも絶望的だって。」
「なっ…!?」
「一年は血の滲むようなリハビリ頑張らないと元の腕には戻らな」
言葉にするのも辛く苦しそうな和希の胸ぐらを未茉はカッとなり勢いよく力任せに掴みがかった。
「そんなこと!!!どいつに聞いたんだよ!!てめぇーーはっ!!!」
「いってぇなっ!!リハビリのトレーナーだよ!!俺と同じ先生なんだよ!!」
「ふざけんな!!そんなことあるわけねーだろ!!ここの病院はセクハラの嘘つき医者の集まりか!?」
「未茉ちゃん!」
怪我人である和希に飛びかかる彼女を制止しようと翔真は引き離すように肩に手を置いた。
その置かれた手の温もりを一瞬感じた後、怒りともどかしさとやりきれなさが一気に未茉の脳内を襲いかかり、
「ぁーっ!!…クソッ!!!」
そんな感情をかきけすように自分の髪をグシャグシャと両手でかきむしり、
「……」
目を閉じ時が止まったような数秒の沈黙の後、ゆっくりと一点を見つめ瞼を開いて口にした。
「翔真、わりぃ。」
「…うん。」
未茉のたった一言に翔真は頷くしかなかった。
その一言がどんな意味かをあえて聞かない選択を無意識にしていた。
未だに朝受けたショックを受け止められずにいて、もう一度、受けてしまったのだから。