「…この前の大成での帰り、お前さ‘翔真が走ってくる!!’って電車から飛び降りただろ?」
「ああ。うん。」
「健、平然を装ってたけどやっぱり傷ついてたぜ。んでその後、手痛めて。あの日は最悪だったろうな。」
「マジかよ…胸いてぇじゃん…そんなこと言われたらよ。」
「健だって同じだよ。同じくらい痛いはずだ。」
「…」
「別に急いで湊と付き合うこともないんだろう?」
「そりゃそうだけど、散々待たしてるし、自分もこの曖昧なのつれぇんだよ。」
「ははっ。未茉。アイツは10年以上待ってるんだぜ?辛いのも同じだ。口には出せない分、相当辛いと思う。」
「…分かってる」
「頼む、未茉。アイツは今、国体に出ることだけを考えてる。そんな時に湊と付き合うとか酷なこと言わないでくれよな。」
匠がそうお願いするくらいの心情と現実であることに、未茉は深く頷いた。
「国体終わって腕が治るまで!それくらい大した月日じゃないだろ?待ってやれよ?」
「…ああ…あたしもそんなにバカじゃねぇよ…」
ゴール下でほくそ笑む健兄じゃなくて、きっと泣いてる健兄がいて、あたしはシュート打つどころか、きっとボールを手放して抱き締めてしまう。
「未茉…」
背中を丸め伏せて、ショックで冷たくなった指先の震えを止めるように、祈るように絡めた自分の両手を額にあて強く願っていた。
翔真とキス出来ない、付き合いが伸びる。そんなことはどうでもいいと思った。代わりに自分の腕を捧げてもいいと思えるくらい、ただただ健兄の腕が本当に一日も早くよくなってほしかった。
‘やっぱり健兄のプレーが一番だなっ!!’
あんな風に笑って誇る和希の夢のような、全国のスタープレーヤーなのだから。
「おい!未茉っどこ行くんだよ!!」
何か、はっと気づいたように立ち上がり、未茉は一人駆け出した。



