「翔真?」


一番聞きたかった声が聞こえると翔真は目を大きく見開き、前を見るとーー

そこには今すぐに会いたかった人が立っていた。

「!え…なんで?」
驚きのあまり聞き返していた。
自分を見てぽかんとする未茉が立っていたからだ。

「なんでって。お前がこっちに向かって走ってたから。」

「…それで降りてくれたの?」
嬉しさと信じられない驚きで翔真は目の前の現実を夢のように思えていた。

「おう。お前が走る時は、大抵あたしの為だろ?」
「……!」
「いっつもそうじゃん。」
腰に手をあて得意気に笑う未茉に

「そう。」

頷きながら彼女へとゆっくり近づいていき、
「なんか用……」と言いかけた未茉を両手で思いっきり自分の胸へときつく抱き寄せ、


「もう誰にもあげない。」

「!!」
急に視界が抱きすくめられた翔真の胸の中でいっぱいになって真っ暗になり驚いた。
募る想いを口にして未茉の細い髪を撫でながら顔を見た。

「俺だけしか見えないって言って。」

「あ?また歌みてぇなくせぇこと言いやがって…」
突然のらしくない翔真の一方的な告白に未茉は驚きながらも、その大きな背中に手を回すと
「そうかな…ははっ」
そんなことを口にしたらしくない自分に翔真もふっと笑ってるのに気づいた。

ギュッ……

最近ずっと触れられなかったし、笑顔も少なかったからなのか、抱きしめられたことに安心を感じるより先に、自分の中に不安があったことに未茉は驚いていた。

ふわっと香る翔真の匂い、この緩い空気と裏腹に暖かい温もりを未茉は噛み締めるようにゆっくり目を閉じてはっきり分かったことを口にした。


「翔真しか見えてねーよ。」

「!」
今度は翔真の驚いた顔が未茉の視界でいっぱいになった。
「あたしに言わせたかったセリフなんだろ?」
「・・・いや、セリフじゃなくて。」
そうじゃなくて・・と苦笑いでひきつっていると、

未茉はつま先立ちをして、グイッーー!と翔真の胸元のティシャツを掴み、ジッとその目を覗き込み

「本当に翔真しか見えてねーよ。」
「未茉ちゃん…」