「お前のキスってこんなんだっけ……?」
「今そんな雰囲気じゃなかったでしょ。」
「どんな雰囲気でもしてくんなかったじゃん!!!」
「それは…」
「あたしが欲しいキスはこんなんじゃねーんだよっ!!!」
ビリッ!!と翔真が顔に貼ってくれた湿布もバンソコウも剥がし、苛立ちながらキスされた唇の記憶を拭い去るかのように何度も唇を擦った。
「未茉ちゃん血…!!」
「こんなの痛くねーってんだろっ!?」
自分が泣いてるなんて気づかなかったのに、ボロボロと溢れる涙が傷口を滲みらしてくから分かった。
「……!!」
「いてぇーのは、お前の頭だ。」
頭を指差して翔真に言い放ち立ち上がって保健室の扉に手をかけた時、
ーーートンッ……
背後からやってきた翔真が未茉の体をすっぽり覆うように両手を扉についた。
「…泣かせてごめん。」
後ろから響く低い声が悲しく聞こえた。
「話聞いてくれる?」
「キスしない理由をかよ。そんなの聞きたい奴がいるかっ!!」
翔真の腕を振り払って出ようとした時、脳裏に一つの伝言が蘇った。
「伝言だ。ユリが文化祭回ろうだってよ。」
「……回らないよ。俺は好きな子と回りたいから。」
「自分で誘っといて何言ってんだよ。」
「誘ってないよ。」
「もーなんだっていーよ。んなことは!!」
ーーピシャッ!と勢いよく音を立てて保健室のドアを閉めて未茉は去っていった。
‘いてぇーのは、お前の頭だ’
壁に寄りかかり天井をぼんやり眺める翔真の頭には、彼女のその言葉がいつまでもこびりつくように響いていた。