「おまっ・・・何してんだよ!?なんで歩いてんだよっ!?」
まだ歩くことなんかできないはずの和希が痛み止の点滴を外し、ベッドから降りて足の痛みをこらえ壁づたいに歩いていたようだ。

「だってよー。こんなとこで四六時中寝てたら体腐るだろ!」
「痛む間は絶対安静だって言われてんだろ!!このたこすけがっ!!!」
「姉ちゃんならぜってぇー病室抜け出して歩きまくるくせにっ!!!」

「うっ・・まぁそれは否定できねぇなぁ・・・。」
腕を組んで和希の言うことをごもっともだと頷くも、
「気持ちは分かっけど…和希が今ムチャしてバスケ復帰が遠退いたら、禅が悲しむぜ?」

「……分かってる。」

少し我に返ったのか和希は落ち着きを取り戻したようだ。

「バスケできねーならせめて歩きたいと思ったんだよ……」
「……」
「このベッドから降りたかったんだよ。自分の足でこの部屋から出てみたかったんだよ……」
毎日小さく狭い空間にいる同じ景色にうんざりする和希は、家族のいる家やバスケコートを毎日思い浮かべていた。

「時計見てこの時間は、教室にいる時間だなとか、昼休みは校庭でみんなと喋ってる時間だなとか、部活で禅と競り合ってるなとか……当たり前だった日常を思い出せるのに代わり映えないこの小さな冷たい空間にいる自分が……マジイヤだ……」

もどかしそうに涙を潤ませながら何も出来ない自分に嫌気がさしたようにうつ向く和希を
「和希!!!」
ギュッと未茉は抱きつき、
「大丈夫!あんたは絶対治る!そんで超ー強くなってコートに帰ってくる!!」
「うん……」
「なんつったってこのあたしの弟だしよっ!!」
「わかった……姉ちゃんいてぇって……しかも泣くな冷てぇから……」
そう言いながらもボロボロと溢れ落ちてくる姉の涙と温もりに余計に和希の目頭も熱くなると、

「あっ!!いいこと思い付いた!!!」

「え……?」
「ちょっと待ってろ!!すぐ戻るからっ!!!」
病室を物凄い勢いで飛び出して行く未茉を見て

「あれは絶対いいことじゃない・・・」
15年未茉の弟をやってると分かる予感・・・。