桜蘭学園高校では夏休み中もバスケ部は体育館で練習に励んでいた。
指揮を取るのはもちろん神崎監督だが昨日のこともあり少し今日は元気がなかった。

「ほらー!そこ簡単に抜かれんなよ!いつもパスがワンパターンなんだよっ!!」
だがウィンターカップに向けて厳しい指導を続けていた。
そんなバスケ部とコートをぼんやりと他人事のように見つめユリは体育館に入ってきた。

「「あ……ユリさんっ!!!」」

部員達が気づくも彼女の私服姿に明らかに練習に来た様子ではないことに気づき、嫌な予感を感じ取った。
「……神崎監督。」
静かに呼ばれて振り返り、ユリは一通の封筒を受け取った。

体育館を後にしたユリが出ていくのを、ちょうど桜蘭学園の校門から入ってきた健は気づいた。
(私服……っーことはまだやる気ねぇのか。)
校舎に入ってしまったのでこちらには気づかなかったのでそのまま用のある体育館へ向かうと、

「あ。」

体育館側の木陰で中腰になりながら一人頭を抱える神崎がいた。
「神崎さん。」
健がそう呼ぶと彼女はがに股で中腰になりながら眩しそうに睨み見上げた。

「うわ。ガラわりぃ。」
「え、健?」
「どーも。」
「ここ女子校だけど?」
「夏休みだと女子校といえど警備緩いっすね。」
「イケメンだからって校内関係者以外立ち入り禁止だぞ。」
「あなたも土足で白石家に立ち入ったでしょ?」

「……!」

「具合悪そうですね。顔色悪いですよ。」

「まぁーね。勝手に挨拶行ってら弟に嫌われ、東京ベスト5の期待の桜蘭のエースは顧問が嫌で辞める。もーこれ以上ないドン底よ。」
「それ笑えないですね。中々。」
昨夜は眠れなかったのか目の下にクマ作り髪をかきあげ苛立ちを通り越し悲しげな瞼を落としていた。

「こんな時に悪いんですけど。」
「え?」
「約束通り国体が終わるまでは、未茉には絶対あなたが颯希さんの婚約者だなんて名乗らないで下さい。」

「……分かったわ。あなたがそんな怖い顔で言うならね。」