「未茉ちゃんっ!!」

マンションのエレベーターから降りた所で後ろから呼び止められた声に驚いて振り返った。

「翔真!」
はぁはぁっと息切れしながら傘を持って階段から降りてきたようだ。
「どうした?」
「どうしたって…傘持ってないでしょ。」
「ああ。そっか。」
エントランスの窓ガラスから見ると確かに昼間と変わらない激しい雨が打ち付けていた。

「わざわざわりぃーな!あ、後これ洋服も借りていい?」
「もちろん。」
「じゃーなぁ!」
笑顔で手を振り、受け取った傘を振りながら歩く未茉の後ろ姿をただ見つめてると数歩してピタッと止まって振り返る。


「おばさんにケーキは今度食べに来るって伝えて!」

「……!うん。」
また未茉は数歩歩きだすと、振り向き後ろ向きで歩きながら
「あ!!お好み焼きさんきゅー!!!」
和希にあげるお好み焼きを振り回しながら手を振る。

「うん。前見ないとぶつか……」
と言いかけるも、未茉はゴツンッ!!と頭をドアにぶつけ、
「いってぇ~~~」
と頭を抱えるも
「大丈……」
「大丈夫だっ!!」
何事もなかったように頭を押さえながらくるっと前を向いて歩きだす。

エントランスの自動ドアに差し掛かった時、未茉は急に立ち止まり、
「……?」
翔真は不思議に思って駆け寄ろうとすると

「抱きついてもいー?」

何を言い出すのかと思ったら彼女は振り返っておもむろにそう尋ねた。