「……!!?」
その目からはたくさんの涙が後から後から溢れ落ちるように頬を伝っていた。
「……未茉…」
分かっていたのにその泣き顔を見た健は驚き、一瞬止まった。
「離せよ!!」
振り払おうとする腕を強く引き寄せ、
「離せるかよ…。」
自分の八つ当たりからの彼女の涙に自分の目も潤ませ、きつくきつく両腕で自分の胸へと抱き締めた。
「わりぃ…未茉」
「健兄がバスケしたいの分かってる!!一番あたしが分かってる!!昔から……」
「ああ。」
「連覇のかかったインターハイも怪我で敗戦して国体にも出れない辛さ分かってる……健兄の一番はどんなときだってバスケだって分かってるんだよ!!」
「ああ。」
未茉の頭に顔を埋めながら頷いた。
「できることなら変わってやりてぇーよ!!健兄にバスケやらせてやりてぇーんだよ……!!!」
これ以上、元気のない健を見たくなかった。
「バカ。そしたら女子が負けんだろ。」
「それはマズイけどよ……ぐず」
「だろ?」
よしよしと頭を撫でると、むぎゅっと未茉は健の服を力一杯掴んで顔を見上げた。
「健兄は絶対また王子を全国優勝させることできるよ!!だって小さい頃からずっと全国のどんなつえー奴より一番練習してきたじゃん!!一番頑張ってたもんっ!!遠回りしてもいつかまた必ず一番になれる!!」
幼い頃からずっとそうだった。
天才だのサラブレットだの言われたあたしよりも嵐よりも、一番練習してきたのは、健兄だった。
『嵐見ろよ!スピンムーブからのシュート!!』
何でも見ればすぐに出来てしまう自慢気な未茉に
『くそぉー!!』
煽られて必死に練習して数時間程で出来てしまう嵐に、
『あんなの出来ないよ…』
見ただけでお手上げする匠に、
『さすがだなぁー。お前ら』
二人を褒めて練習に付き合った後、一人で日が落ちても朝、日が昇る前から一人で練習し続けた健。
できるようになるまでひたすらに。
何日も、何十日も、何ヵ月も一人で黙々とボールを叩きつけ、床を蹴りあげネットを揺らす。
いつも完成するのは遅くても、あたしや嵐なんかと比べ物にならないくらいの鮮やかさと高い決定率を誇り技を身につける。
そしてその完成度が高いのは健兄だった。



