ーーコンコン。
そして同じ頃、静香の部屋を匠がノックした。

「誰やー?」
長年の付き合いで未茉はノックなどしないという絶対的確信があるため、ベッドで寝そべりスマホをいじりながら尋ねると、

「……匠だけど。」

「!!?」
静香は驚き思わず起き上がるも、冷静になり、
「未茉ならおらんで。」
気持ちとは裏腹に冷たく放った。

「匠さんに試合中にキスしたことを監督に怒られて正座させられてんねん。」
(これで心配でもなんやでもして未茉のとこ行けばええねん。)
そしたらあんな男ってこの怒りをバスケに向けられるーー静香はそう思ったのだ。

「そっか。静香ちゃんにも話があったんだけど…ちょっといいかな?」
「にも・・・ってなんや・・ついでやないか。」
「あっ、いや、そうじゃなくて…二人に話があって…」

面白くなさそうにイラッとする静香だったが、慌てふためくこの彼の不器用さが嫌いではなく、むしろ好きであった。


「なんや。」

チェーンをしたまま扉を数センチ空けてその間から顔を出した。

「言っとくけどうちがオープンになるんは、好きな相手だけや。振られた男に今さら好きや言われても無駄やで。鉄は熱いうちに打てゆーやろ。あれと同じや。」
わずかな隙間から得々と語り出すと、

「……ちゃんと謝れてなくて本当にごめん。」

「ええよ。匠さん見る目がない男やゆーのがよう分かったで。」
「見る目…ないのかな。」
ははっとやるせなそうに空笑いする匠が余計に静香の目にも寂しく映った。