一方、女子達のうっとりするような視線を独り占めしてるのは健だった。
窓から差し込む陽射しによって、飾らない短髪の黒髪が少し茶色輝き、一人そこだけ流れる空気が違うような眩さすら伺え、物思いに更けながらスマホをいじる芯の通った凛々しい横顔もまた絵になる。
「あっ、健兄っ!!」
「おう。っーかなんだその量。すげぇー食うな・・・」
そんないつまでも眺めていたい空気をこの能天気娘が練習前なのに食器いっぱいにおかずをてんこ盛りに乗せてやってきた未茉によって壊される。
「へへーっ!食堂のおばさんと仲良くなったら朝の余ったパンもくれたぜ?」
自慢気に見せて手を合わせて‘いただきまぁーすっ!’と元気いっぱいにご飯を頬張っていく。
「幸せな奴だなっ。」
試合の時の熱いイメージからは想像もつかないくらい真逆の優しい笑顔を見せた健に女子達は遠目から顔を赤らめ、能天気な未茉には羨ましそうな視線が飛び交うも、
「あっ、健兄!あたしのモヤモヤは解決したんだよっ!!」
「お前の人生にモヤモヤとかあるのか?」
「失礼なっ!」
「ははっ!なんだよ聞いてやるぜ?」
「ずっとさあたし匠兄に避けられてると思ってたのね。」
「……」
「でもね、分かったんだよ!」
「え?」
意外な言葉に驚く間もなく、未茉は健の側により耳元でコソッと囁くと、
「あ、仲良さそー♪」
田島は健と未茉を指差してその反応を楽しむかのように翔真と早乙女に言うと、二人は唇を噛みしめ恨めしそうな視線を送ってる・・・
「ん?何?なんだって?」
その二人の視線に気づいた悪ふざけ大好きな健は見せつけるように聞き取りづらいふりをして何度も未茉に密着し耳打ちをさせるが、
「だぁーかぁーらっ!!匠兄が」
「あ?」
ようやく健も未茉の言葉に耳を傾けるも、
「匠兄は静香のことが好きだったんだっつてんだろっ!?」
小声でキレながら言った未茉の言葉に、
「あ・・・・?」
我に返り耳を疑うしかなかった健なのであった。