最近、綾香は俺とぎゅーする回数が減った。

理由を考える必要はない。

あのぬいぐるみだ。

この前デートで行ったショッピングモールで、おそろいのクマのぬいぐるみを買った。

俺は茶色、綾香はピンク。

そんなに小さいわけではなく、普通の赤ちゃんくらいの大きさ。

最初は2人で自分のをぎゅーってしてたのに、いつからか、綾香の手には俺の茶色のクマがいた。

見た瞬間は「何この子!可愛すぎる!」なんて舞い上がって適当に見てたものの、最近それのせいでモヤモヤして何もうまくいかない。

授業中にボーッとして怒られるし、人の話は上の空って言われるし、部活では思いっきりボール喰らうし…。

なんであのぬいぐるみ買ったんだ…。

どうにかしてあのぬいぐるみを綾香から離さなければ…。

嬉しそうに俺のぬいぐるみを抱えながらソファに寝転がる綾香を見ながら考えた結果、俺はある作戦を思いつく。



『同じことやっちゃえば俺の気持ちが分かるだろ!作戦』



ほら、押す勇気が無いなら引いてみろってあるだろ?(ない)

と、言うわけで実行。

綾香の部屋からぬいぐるみを持ってきて、ぎゅうっと抱きしめる。

やば、綾香の匂いする…めっちゃいい匂い…。

そしてソファの前に座る。

「あっ、私の」

早速気づいてくれた。

「なんで私の?」

「だって綾香が俺の持ってるじゃん」

「だって…」

何かを言いかけて急に黙り込み、モゴモゴと語尾を濁らせる綾香。

ん?なんだ?そろそろ俺の嫉妬心が分かったか?

「なに?」

「…その、匂い、するから…」

「…へ?」

え、今この子ものすごく可愛いこと言いませんでした?

もしかして幻聴?

もしかしなくても幻聴?(?)

「ちょ、詳しく」

「は!?」

俺は綾香の顔にぐっと自分の顔を近づける。

下手したらキスできそうな距離感。

「いやっ、別にっ、その…」

顔を赤くして目を泳がせてるその表情ですら可愛すぎて、めちゃくちゃそそられる。

俺は自然に自分の唇をペロリとひと舐めしていた。

これは誰も知らない俺の癖で、襲いたいという理性の崩れかけを伝えている。

それにすぐさま気づいた綾香は、さらに顔を赤くしてこう言った。

「直接ぎゅーするの、恥ずかしい、から颯斗の匂いがするぬいぐるみを、ぎゅーってしようと、思って…」

ました…と呟く綾香。

は?

つまり俺の匂いがついてるぬいぐるみを俺だと思ってぎゅーってしてたわけ?

は?

え?

は?

「それだけ、です」

また恥ずかしそうにボソリと言う。

俺は綾香のぬいぐるみを置き、手を掴んでそのままソファに押し倒した。

「ぎゅー以上のこと、してあげる」

「は!?なに言って…!」

その開いた口にキスを落とす。

「ん…ふ…」

少し長めの口づけをしたあと、唇をゆっくりと離す。

肩で息をする綾香を今すぐ襲いたいけど、多分彼女にはまだ少し早い。

そしてかわりに、綾香をぬいぐるみのようにぎゅーっと抱きしめた。

「こうされたいんでしょ?」

「間違ってはないけど…」

このあとはもうちょっと大人になってから、ね。

ぬいぐるみよりも、ちゃんと綾香の匂いがする。

しばらくしてスースーと寝息を立て始めた綾香が可愛すぎて、首に痕をつけて怒られたのはまた別の話。