だから、言えない



「え?塚尾さんは?」
「なんで塚尾が…
塚尾さんが出てくるの?」
「塚尾さんといい感じでしたよ、先輩」
「塚尾さんがそう見せただけでしょ」

俺はことちゃんの手から
タオルを優しく取り上げると、
洗面台の隅にそっとおいた。

「ほんとなんですか?
村薗先輩は優しいから、
私のために嘘ついてませんか?」
「ううん。ついてない。
むしろ、今まで、
ことちゃんを好きじゃないと、
自分に嘘をついてた」

俺はことちゃんをひょいっと持ち上げて、
洗面台に座らせた。
俺とことちゃんの目線が
同じくらいになった。

「今日、ことちゃんが
俺を好きだといってくれたでしょ?
それで俺は、これ以上、
自分に嘘をつけなくなったんだよ」
「先輩が私なんかを好きなの…
信じられない」

俺はことちゃんの頬に右手を添えた。
そして、左手で、
ことちゃんの手を握った。

「もう、先輩じゃなくていいよ。
昔みたいに、名前で呼んで…」
「優…くん…?
ん……」


俺は、ことちゃんにキスをした。

何度も何度も、甘いキスを。

だけど、十数年分のキスはまだまだ足りない。